日産自動車は15日、待望の新型クロスオーバーEV「アリア」を発表しました。日本での発売は2021年中頃の予定で、日産によれば"実質購入価格"は約500万円からとなる見込みとのこと。
コンセプトカーをほぼそのまま市販化
日産アリアは、2019年秋の東京モーターショーに出展された同名のコンセプトカーを市販化した新型電気自動車。日産が予告していたとおり、内外装デザインは微妙な細部を別にすればコンセプトカーからほとんど変わっていません。少なくともコンセプトカーを見て期待していた人ががっかりすることはないでしょう。特徴的な4つのLEDを使った超薄型ヘッドライトや、車幅いっぱいに伸びた細型テールライトも、コンセプトのイメージを崩さないように法規に必要な機能性が加えてあります。
ルーフラインがなだらかに後端まで伸びたクーペ風スタイルのクロスオーバーは、世界的な流行に追従したとも言えますが、日産はそのデザイン・テーマに「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」という言葉を掲げ、日本の伝統的な無駄を排した美しさや力強さを、モダンな表現で反映したと言います。
ロゴマークも刷新
車両サイズは全長4595mm × 全幅1850mm × 全高1655mm。外寸はトヨタの「RAV4」と同じくらいですが、ホイールベースは2775mmとかなり長くなっています。
ボンネット下にエンジンを持たないEVは、通風口としてのフロントグリルを必要としないため、フロント部分はスモークがかったパネルで覆われ、その内側に半自動運転技術に必要なセンサー類を搭載。表面には日本伝統の組子から着想を得たという立体的なパターンが刻まれています。
中央で(文字どおり)光っているのはアリアから採用された日産の新しいロゴ。時代に合わせて以前より洗練された印象ですが、伝統の「至誠天日を貫く」という言葉を表した丸い太陽を貫く水平線のモチーフは受け継ぎます。
物理スイッチを廃したダッシュボード
インテリアもコンセプトカーからそれほど変わっていません。最初に目を引くS字型ディスプレイは、日産によれば「ドライバーの自然な視線移動とタッチディスプレイの使いやすさを両立」させたとのこと。フルカラーのヘッドアップ・ディスプレイも備わります。ドアトリムと足元にも日本の組子にインスピレーションを受けたという照明を装備。「見る角度によって豊かな光の移ろい」が楽しめるそうです。
木目調のパネルに統合された空調スイッチはハプティクスを採用。押した感触が得られるように設計されています。床下にプロペラシャフトや排気管がなく、トランスミッションも必要としないEVのアリアは、シートのみならずセンターコンソールも電動で前後に調整できます。
プラットフォームは完全新規開発
アリアのプラットフォームはEV専用として新規開発されたもの。「リーフ」からの流用ではありません。モーターは小さく、バッテリーも薄くなりました。さらに空調ユニットを車内から前方のモータールームに移したことで、車体サイズはいわゆるCセグメント(トヨタ・カローラやフォルクスワーゲン・ゴルフなどのクラス)に属しながら、1クラス上に相当する広々としたキャビンを実現できたと日産は言います。
電動4輪駆動システム「e-4orce」
また、バッテリーには日産のEVで初めて水冷式の温度調節機構を採用。外気温による影響を防ぎ、安定したバッテリー性能を発揮できるだけでなく、従来の空冷式よりバッテリーの劣化が抑えられることも期待できます。
電動パワーユニットは、2種類のバッテリー容量 × 2種類の駆動方式の合計4種類から予算や使い方に合わせて選べます。車体中央部分の床下に置かれるリチウムイオン・バッテリーの容量は、65kWhと90kWhを用意。モーターはフロントに1基のみ搭載する前輪駆動のほか、後輪駆動用にもう1基のモーターを加えた4輪駆動も設定されています。
この「e-4orce(イー・フォース)」と名付けられたツインモーターの4輪電気駆動システムは、EVの制御技術に日産が「GT-R」などのスポーツ四駆で培ってきた技術を融合。走行状況に合わせて前後のモーターを個別に緻密に制御することで、悪天候や未舗装路における安定性・安心感が高まるのみならず、「走りの楽しさ」も味わえると日産は胸を張ります。さらに2基のモーターが発生するトルクだけでなく、回生ブレーキも前後で制御できるため、減速時の車体の沈み込みを調整でき、車体の揺れも抑えることが可能です。発表会では雪のワインディングロードを快走するアリアの映像が映し出されました。
電動ドライブトレインは4種類
65kWhバッテリーと前輪駆動を組み合わせる場合、モーターは最高出力160kWと最大トルク300Nmを発生。0-100km/h加速は7.5秒、最高速度は160km/h、そして1度の満充電で走行可能な航続距離はWLTCモードで最大450kmとなります。つまり、日産リーフの62kWhバッテリー搭載車(458km)よりわずかに短い程度ということです。当然ながら、この仕様は最も価格が抑えられたアリアになる見込みで、日産の言う「実質購入価格500万円から」という金額はこのモデルに当てはまると思われます。
90kWhの前輪駆動モデルは、最大610kmというアリアのラインアップで最も長い航続距離を誇ります。モーターの最高出力は178kWに引き上げられますが(最大トルクは300Nmと変わらず)、増えたバッテリーにより車重も重くなるためか、0-100km/h加速は7.6秒に留まります。
65kWhバッテリーと2基のモーターを搭載するアリアは、航続距離こそ最大430kmに留まるものの、2基のモーターは合計で最高出力250kWと最大トルク560Nmを発生。0-100km/hまで5.4秒で加速し、最高速度は200km/hに達します。比較的軽量な車重とe-4orceの組み合わせで、運転すれば走りの楽しさが最大限に味わえる仕様になりそうです。
90kWhバッテリーを積む4輪駆動の最上級モデルは、2基のモーターが合計で最高出力290kWと最大トルク600Nmを発生、0-100km/hまで5.1秒という「フェアレディZ」並みの加速力を発揮します。航続距離は最大580km。詳細な装備や仕様はまだ発表されていないものの、標準装備も充実した最高グレードになる模様です。
30分の急速充電で最大375kmを走行可能に
アリアのバッテリーは最大130kWの急速充電に対応し、日産よれば「130kW以上の出力が可能なCHAdeMO急速充電器を使用した場合」30分の急速充電で最大375kmの距離を走行できるとのこと。現行のリーフe+では最大出力100kWの急速充電に対応しているものの、最大充電電力は70kW程度に留まるため、大きな進歩と言えるでしょう。もしもの災害時には移動可能な蓄電池として、外部に給電することも可能です。
プロパイロット2.0は準天頂衛星システムも採用
アリアは日産が非常に力を入れて新開発したEVですから、運転支援技術やコネクテッド技術も最新版が投入されています。「スカイライン」で初採用された日産の「プロパイロット2.0」は、車両に搭載した7個のカメラ、5個のレーダー、12個のソナーで白線や標識、周辺車両を検知するだけでなく、GPSや3D高精度地図データを使うことで、高速道路ではハンズオフ、つまり手放し運転を可能にする技術(状況によりますが)。さらにアリアでは準天頂衛星システムも初めて採用し、より高精度に自車の位置が把握できるようになりました。
Amazon Alexaを搭載
コネクテッド技術に関しては、Amazonが提供する音声サービス「Amazon Alexa」を搭載。Alexaに対応したスマートホームデバイスであれば車内から操作できるので、例えば帰宅する前に自宅のエアコンや照明のスイッチを入れておくことも可能になります。あるいは逆に、自宅からスマートスピーカーを使ってクルマのバッテリー残量や走行可能距離を確認することもできます。ドライブ前にはスマートフォンでナビゲーション・システムの目的地を設定することも可能。その際、現在のバッテリー残量で辿り着けそうもない場所であれば、自動的に途中の充電スポットを経由地に設定してくれます。地図情報などはスマートフォンのように無線でアップデートされます。
ライバルはテスラ・モデルY
発売予定は1年ほど先なので、まだ価格は明らかにされていませんが、前述のように日産は「実質購入価格は500万円から」と述べています。つまり、補助金を別にすれば500万円台の半ばからという意味でしょう。米国では最近4万9990ドル(約534万円)からという価格に値下げされたテスラの「モデルY」に真っ向から競合することになりそうです。
ちなみにその価格で買えるテスラ・モデルYは、2基のモーターを搭載する4輪駆動が標準で、航続距離は米国のEPAモード(WLTCより厳しめの数値になる場合が多い)で約508km、0-60mph(約96.6km/h)は4.8秒と、数値だけを見ればコスト・パフォーマンスではアリアより優位に立ちそうです。ただし、自動運転機能「オートパイロット」は8000ドル(約86万円)もするオプションです。
とはいえアリアにとって、日本では性能や装備よりも「日産のディーラーで買える」ことが、テスラに対する最大のアドバンテージになるかもしれません。
(※上記仕様は2020年7月時点のものであり、今後変更となる可能性があります)
関連リンク:日産アリア公式サイト
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2020-07-15 14:31:08Z
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