欧米諸国や中国などが新型コロナウイルスのワクチン開発を競う中、ロシア国産のワクチンについて最新の臨床試験(治験)で9割を超す有効性が確認された。国際的にワクチン不足が続く状況で急速に関心が高まるが、どこまで効果があるのだろうか。
「この場を借りてロシアの成功を祝いたい。全人類にとって良いニュースだ」
5日、訪露中の欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)がラブロフ露外相と臨んだ記者会見。反体制派指導者ナワリヌイ氏の収監決定などを巡り緊迫した雰囲気が漂う中、ロシアのワクチン「スプートニクV」に関する質問が出ると、ボレル氏の声が弾んだ。
この3日前、約2万人が参加したスプートニクVの最終段階の治験で91・6%の有効性が確認されたという中間結果が英医学誌「ランセット」に公表された。60歳以上でも同様の有効性があり、重い副作用は確認されず、接種を受けた後に発症した場合でも重症化した事例はなかったという。
この論文の発表後、ロシア製ワクチンに懐疑的だったEU加盟国でも「良いデータを受け取った」(メルケル独首相)など好意的な反応が相次いでいる。欧州各国がワクチン供給の遅れに頭を悩ます中、独自にスプートニクVの購入契約を結んだハンガリーは11日から接種を開始した。他の加盟国はEUで医薬品の審査を行う欧州医薬品庁(EMA)の承認手続きが終わるまで待つ方針だが、安全性が確認されれば、購入の動きが加速しそうだ。
開発を支援する露政府系ファンド「直接投資基金」によると、スプートニクVの使用を承認する国は、南米や中東など25カ国以上に達した。すでに50カ国以上から計12億人分以上の注文も受けているという。
ロシアは新型コロナの感染者が約400万人に達しており、国を挙げてワクチン開発を急いできた。過去にエボラ出血熱などのワクチン開発で蓄積してきた技術を転用し、スプートニクVの国内での使用を承認したのは2020年8月。「世界初」と銘打って、プーチン大統領自らが国際会議などの場で「絶対に安全で有効」と訴え、他国への売り込みに力を入れた。
◇ソ連時代にもワクチン外交展開
その姿は、天然痘やポリオのワクチンを発展途上国などに供給し、影響力拡大を図ったソ連時代の「ワクチン外交」をほうふつさせるとの指摘も出ている。経済協力開発機構(OECD)加盟前の日本でも1961年、ソ連やカナダからポリオのワクチンを緊急輸入し、流行を収束させた。
スプートニクVの開発では当初、他国との競争に前のめりなロシアの姿勢が逆に多くの批判を招いてきた。ワクチンの使用は3段階ある治験の最終段階が始まる前に承認され、情報公開の不十分さを取り上げる声が相次いだ。米製薬大手が自社ワクチンの有効性を「90%」「95%」と相次いで発表するたびに、スプートニクVの有効性に関する暫定結果が「92%」「95%以上」と引き上げられたことも疑念を呼んだ。
今回のランセットに発表された中間結果に対しても、有効性が実際よりも引き上げられている可能性が指摘され、生データの公開を求める声も出ている。ただ、ワクチンの安全性や基本的な効果については目立った批判はなく、ワクチン開発を急ぐロシアの姿勢が疑念を増幅させてきたともみられている。英BBC(ロシア語版)は「秘密主義が余計な疑念を引き起こしてきた」との専門家のコメントを伝えた。
ロシアでは他にも二つのワクチンの治験が進んでおり、プーチン氏は8日、「ロシアは新型コロナのワクチン開発で世界をリードする地位を占めている。国産ワクチンを三つも持つ唯一の国だ」と、自国の「科学的成功」を誇った。
ソ連時代の愛国心の象徴だった世界初の人工衛星スプートニクの名前が付けられたワクチンは、プーチン政権にとって国威発揚のシンボルともなり、国営メディアは連日、国内外での接種の様子などを伝えている。
◇供給力が課題か
ただ、世界的に注目が集まる中、新たな課題も生まれている。ロシアでは20年12月から一部で集団接種が始まったが、接種人数はこれまでに多くて220万人程度にとどまるとみられている。一部の地方ではワクチンの不足も伝えられており、供給能力が需要に追いついていない可能性が出ている。
開発者側はインドや韓国など国外での追加生産も拡大させている。直接投資基金のドミトリエフ総裁は露メディアの取材に「ロシアは6月までに国内の希望者への接種を終える唯一の国になる」と自信を見せる一方、「生産には一定の制限がある。年内に確保できるワクチンは約7億人分にとどまる」とも認める。ランセットの論文を「ソ連時代以来、最大の科学的ブレークスルー」と報じた米ブルームバーグ通信は6日、「生産能力がロシアの野望の主要なブレーキになっている」と指摘した。【モスクワ前谷宏】
◇英専門家も効果認める
ロシア製ワクチン「スプートニクV」は、風邪ウイルスの一種である「アデノウイルス」を使ったもので「ウイルスベクターワクチン」と呼ばれる。英製薬大手アストラゼネカと英オックスフォード大が共同で開発したワクチンや、米医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン製もアデノウイルスベクターワクチンだ。米製薬大手ファイザー製や米バイオ企業モデルナ製の遺伝子ワクチンとは材料が異なる。
ウイルスベクターワクチンは、アデノウイルス自体を無害化して「運び手(ベクター)」として使い、新型コロナに対する免疫を獲得するために必要な遺伝子を組み込む。接種するとヒトの細胞に侵入し、遺伝子によって新型コロナが持つたんぱく質を合成する過程が、自然感染して体内で増殖する過程と似ているため、効率的に免疫が得られると期待される。
ただし、唯一の弱点と言われるのは、アデノウイルスに対する免疫も同時にできてしまうことだ。将来的に同じウイルスを使ったワクチンを繰り返し接種すると、免疫によって運び手として機能しなくなり、ワクチンの効果が期待できない可能性がある。ロシア製ワクチンは2回接種が必要だが、1回目と2回目で異なるアデノウイルスを使ってしているという。
「91・6%」という有効性はどういう意味を持つのか。
ランセット掲載論文によると、18歳以上の1万9866人を無作為に二つのグループに分け、1万4964人にワクチンを、4902人には偽薬をそれぞれ2回ずつ接種。臨床試験(治験)期間中に78人が感染し発症した。
発症者のうち、ワクチン接種グループは0・1%にあたる16人、偽薬グループは1・3%にあたる62人だった。この二つのグループを比較し、「ワクチンによって発症者を91・6%減らすことができた」と結論づけた。
年齢別や男女別でも、有効性は各グループで87%を超え、60歳以上では91・8%という。英レディング大の専門家はランセットで、「ロシア製ワクチンは開発過程では透明性の欠如などの面で批判されてきたが、今回報告された成果はクリアだ。新型コロナとの闘いの手段としてもう一つのワクチンが加わったことになる」と評価している。【渡辺諒】
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2021-02-14 21:00:00Z
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