Kamis, 18 November 2021

BALMUDA Phoneには何が欠けているのか 「デザイン」と「新規参入」のジレンマ - ITmedia

 11月16日、バルミューダは自社開発スマートフォン「BALMUDA Phone」を発表した。

 だが、SNSなどを見る限り、その内容を素直に喜んでいる人は少ないように見受けられる。筆者もその1人だ。では、なぜBALMUDA Phoneを物足りないと感じているのか、その点を分析してみよう。そこからは「スマホとはどのような製品なのか」ということが見えてくると思うからだ。

バルミューダに求めていたものが欠けていた

 先に立場をはっきりさせておきたい。

 今回、筆者はまだ製品を実際に見ておらず、触っていない。16日の発表会には参加を予定していたが、前日までの体調不良もあり、急遽参加を見合わせた。その関係で、結果的に情報については、ニュースリリースやリアルタイムでの関係者のツイート、発表後の記事、石川温氏がYouTubeで公開した発表会動画を見た上で書いている。触ったら180度話が変わる可能性を否定するものではない。

 ただまあ、実機に触れ、質感や動作で好印象を持ったとしても、意見は変わらないと思う。というより、それらは「見る限り十分に良いだろう」と捉えた上で以下のような評価をしているからだ。

 今回のBALMUDA Phoneについては、バルミューダのブランド価値を活かせていない、よくない商品だ。強い購入意欲を持つことはない。

 なぜなのか? 「高い」「スペックが低い」といった意見が目立つが、それは現象の一部を切り出したものに過ぎない。

 本質的な話をするならば、「バルミューダに求めていたものが欠けていた」からだろう。

 バルミューダは、形にこだわった製品を作る一方、コアな変化を追加することで他の家電メーカーに対抗してきた。けっして多機能なわけではなく、コア機能一本勝負、といってもいい。

 一番有名なのは「BALMUDA The Toaster」だろう。蒸気を併用しつつ温度コントロールを行うことで、パンの種別に合わせて美味しい焼き方ができる。筆者も使ったことがあるが、確かに「今までのトースターとは違う体験」を得られた。

 では、BALMUDA Phoneはどうだろう?

 普通のスマホにしか見えない。

 もちろん、持ちやすいだろう。形もかっこいい。スケジュールアプリも使いやすく、呼び出しが楽なのだろうと思う。

 だが、それはそんなに特別なことではないのだ。

 スマホには多数のアプリがあって入れ替えられるし、形もいろいろある。

 「今のスマホには選択肢がない」と、バルミューダの寺尾玄社長は話していたが、そこにはちょっと同意しかねる。バリエーションはあるが、価格や必要な機能などの課題もあり、選択に偏りが出やすいだけだ。

 そもそも、なぜ市場にこれほどスマホケースがあるかというと、そこに個性を求めている人が多いからでもある。その市場価値を軽く見てはいけない。逆に、マイナーでケースの少ないスマホは「個性を演出できないスマホ」だと思われかねない。表裏一体の状況なのだ。

 「ディスプレイ部分を含めてどこにも直線がない」ともいう。では、それは本当に、このスマホでしかできない体験なのだろうか。また「スマホが直線的である」ことがペイン(苦痛な)ポイントだったのだろうか。

photo 「私たちの手は、板状のものを持つために造られていません」と主張

 もっと言えば、同じようなサイズではるかにスペックが良い「iPhone 13 mini」より高い値段で売られることに対する説得力を持ちうる体験なのだろうか?

photo 寺尾社長の開発ストーリーにはスティーブ・ジョブズ氏への謝辞もあるのだが

 多くの人にとってそれが感じられないから、BALMUDA Phoneを評価する声が少ないのだろう。

「体験で語るデザイン」が不足している

 ここまで筆者は、あえて「デザイン」という言葉を使わずにきた。デザインとは一般に「形」のことを指すことが多い。だが、筆者はもはや違うと考えている。特にスマートフォンのような製品ならなおさらだ。

 デザインとは「どういう体験ができるのか」ということ全体だ。形はとても重要なものだ。画面表示やアプリの動作も同様。ソフトとサービスが製品の完成度を決める上で重要な要素になってくると、この領域も当然デザイン、ということになる。

 BALMUDA Phoneは、形とソフトの工夫の面で独自のことをしている。だが、それだけではまだ「デザイン」としては不足だ。

 そのスマホを買うとどういういいことがあるのか、という点をわかりやすく示すことや、そのための仕掛けも、いまや「デザイン」の範疇に入る。

 例えば、新しいスマホへの移行が簡単になるソフトを作ることは付加価値の1つに過ぎないが、箱を開けると転送ケーブルがまず目につき、「ああ、これでつなげばいいのか」を分かるようにしてあり、さらに、ケーブルをつなげばそれだけで移行作業が始まったりすると、これは確実な「体験のデザイン」と言えるだろう。

 BALMUDA Phoneが主張するように、現在のスマホの大きさや形への不満を解決する、というのは1つの方法論かと思う。

 だが、それを「形としてのデザイン」に頼って表現してしまっても、「ああ、コンパクトなスマホだな」で終わってしまう。これを買うとどういう体験ができるのか、どう今までと違うのか、という「体験のデザイン」が求められる。

 そういう意味では、あの形状は特徴的ではあるが、本来のターゲットユーザーがどこか、見えづらい。背中が丸いスマホは過去にもいくつかあったが、今は少なくなった。なぜなら、机の上に置いた時にくるくる回りやすく、安定しないからだ。見かけなくなった形状には、一定の意味がある。

 アンケートを取れば、「スマホは大きくて持ちづらくなってきた」と答える人は確かに多いだろうし、「デザインも画一的だ」と答える人も多い。そうした顧客を狙うのはもっともなやり方だ。

 しかしそれは、ファストフードの顧客にアンケートをとれば、必ず「ヘルシーなメニューを」「サラダセットの充実を」という要望が出てくるのと同じだ。重要であり絶対求める人がいるが、主ではないし、求める場が違うこともある。意外と、別の新しい真逆の要素がヒットの要因になることもある。

 ふんわりした言葉ではなく、「何に困っている人に」「どんな体験を提供するのか」という点をテコにし、ソフト、サービス、形状をセットで考えて、初めてある種の価値が提示できる。

 ただ、それを毎回やるのが大変だから、各社は大量のマーケティング調査をし、ラインアップをシリーズ化し、ユーザーシナリオを作ってカタログを埋めていくのだ。

 あまり面白味のないやり方に聞こえるが、逆説的に言えば、そうした手法を抜け出るには圧倒的なパワーが必要だし、失敗も覚悟しないといけない、ということでもある。

独自性の前に横たわる「量とコスト」の論理

 実際のところ、スマホとしてベーシックな価値で差別化するのは意外と難しいものだ。なぜなら、汎用機であるスマホにとって、ベーシックな部分は当然「誰もが求める=どのメーカーも求める」ものだからだ。

 Androidであるわけだし、プロセッサもQualcomm。そうしたプラットフォームの上に乗るからには、できることの選択肢は限られてくる。ソフト的に見ても、本当にコアな部分は手を入れづらく、無理にやろうとすればするほど長期的なメンテナンス性で苦しむことになる。

photo プロセッサはミッドレンジ向けのSnapdragon 765

 ディスプレイなどで独自パーツを使っているために高価になった、という部分があるようだが、価格差の理由とするには目立ちづらい部分だ。個人的には、サイズが下がった上にインカメラがパンチホール処理なのはあまり好きではない。9:16の画面比も、より縦に長いスマホが増えた結果新鮮味をもって見えるが、冷静に考えれば以前はよくあったものでもある。実際には「作れる中での最適解」だった、ということなのだろう。

 こういう部分で、一定の思想をもって特別なパーツを選んで使うと、それは1つのストーリーになりやすく、消費者の目にも説得力なって見えてくる。ただそれには、「数とコスト」も重要だし、変化が見えやすいことも重要だ。特別なものを作るにはそれだけお金がかかり、スマホはそれを量産効果でカバーする場合がほとんどだ。

 今回のBALMUDA Phoneが高く見えてしまう背景には、自然な形を目指したがゆえにそうした部分での独自性が薄く感じられ、「SoCの性能などから判断するとかなり割高に見えてしまう」ことがあるように思えてならない。

「スマホの外で勝負をかける」手もあったのでは

 スマホに新規参入するメーカーにとって、ハードルはたくさんある。京セラのように経験豊かなパートナーを国内に見つけられたのはバルミューダにとってプラスだったろうが、そこでできることもまた、限られてくる。

 現実的選択は悪いことではない。

 ビジネス的に見れば、BALMUDA Phoneは、大量に在庫が残ってしまう事態さえ防げれば、ソフトバンクとの関係もあってシュアな状態で終えることができるかもしれない。うがった目で見れば、「価格高めで保守的なハードウエア」はそうしたビジネスありきにも見える。だが、きっと彼らはそう思われたくないはずである。

 問題はそれをどう見せるかだ。

 スマホの中だけで説得力のある違いを作れないなら、「外」を生かしてもいい。

 もっともわかりやすいやり方が「価格」だ。パーツから見える納得力の高い値付け、というのはそういう部分だと思う。BALMUDA Phoneがせめて6万円台で買えていれば、形状の特徴が「納得のデザイン」になっていた可能性は高い。

 売り方もあるだろう。

 今回の施策の中でも感心したのは、直販の場合、スマートフォンであっても、同社の特徴である「30日返金保証キャンペーン」をやったことだ。そうした施策は、企業としての一貫性を考える上で重要な点と言える。

photo 「TRY ME! 30日間返金保証キャンペーン」

 IoT的なものでなくても、同社の家電との連携があっても良いのかもしれない。BALMUDA Phoneの中からしか読めないレシピが提供されるとか、食材通販があるとか、サポートを受けるときに手間が1つ2つ減るとか、そういう話でもいいのだ。

 筆者は、スマホ初参入のバルミューダに、「ハードの特異性」でもともと期待していなかった。楽しみにしていたのは、そういう「なぜスマホまでバルミューダにするのか」という理由づけであり、演出だった。それがあまり見えなかったのは残念なことである。

 個人的には、寺尾社長の言うように「すでに複数台の開発に着手」「スマホとはいえないようなサイズのものも」ある、ということなら、あえてスタンダードよりそちらを先に出し、すぐにスタンダードもアピールする……というような、順番を入れ替える作戦が良かったのではないかと考えている。

 同社がデジタル機器で長くやっていくつもりなら、別にスタンダードから始める必要はない。

 スタンダードには信頼が必要だ。信頼は、そのままストーリーになり、自社製品に込められた思いに付加価値をつけるドレスになる。

 スタンダードこそ、同社が本当の意味で満を持して切るべきカードであり、それは初手ではなかったのではないか、とも思うのだ。

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2021-11-18 03:12:00Z
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