鉄道運行計画において、かくも複雑な事例があっただろうか。2023年3月に開業予定の「新横浜線」の話だ。新横浜駅を接続点として、東急電鉄と相模鉄道の線路がつながる。しかし運行計画は単純な直通ではない。
相模鉄道は本線といずみ野線の列車を直通させる計画だ。東急電鉄は東横線系統と目黒線系統の列車を直通させる計画だ。これだけで4路線。両社の新横浜線を加えて6路線になる。
東横線は東京メトロ副都心線に直通しており、その先の東武鉄道と西武鉄道も直通する。目黒線は都営地下鉄三田線と東京メトロ南北線に直通しており、南北線の先には埼玉高速鉄道がある。新横浜駅でつながった時点で、7社局(6社+1交通局)、14路線がかかわる。
これに加えて、相鉄新横浜線は西台〜新横浜間の途中にある「羽沢横浜国大駅」にてJR線とも接続しており、すでに直通運転を実施済みだ。合わせると8社局15路線。新横浜には直接関係ないけれども、東急東横線のダイヤが変更されると、横浜駅から先、相互直通運転している横浜高速鉄道みなとみらい21線も影響する。これで9社局16路線である。
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相互直通運転がある路線は、自社の都合だけではダイヤを決められない。境界駅で両社の車両がスムーズに運行できるよう配慮する。
国鉄時代の列車ダイヤは最初に特急列車の時刻を決めて、次に急行、各駅停車の順に決めていた。これは全国一社だからできたことだ。前回のスカイライナーの話でも述べたように、相互直通区間が混ざると有料特急でさえ遠慮する場面がある。
京急〜都営浅草線〜京成スカイアクセスの直通運転もかなり複雑だ。京成線側は本線と押上線とスカイアクセスが離合するし、都営浅草線も泉岳寺で京急直通と西馬込方面に分かれる。京急も本線系統と羽田空港方面に分かれる。運行計画当事者には申し訳ないけれども、趣味の研究にとっては興味深い路線だった。
相互直通運転は、線路施設と車両の規格を一致させる必要がある。さらに保安信号装置も統一したいところだけれど、各社が独立して整備したシステムをいっぺんに変えられないから、乗り入れ先の信号システムや無線装置を追加する対応をとる。東急東横線の車両が西武池袋線に乗り入れるときは、西武鉄道式の信号装置が必要というような対処だ。これも、直通全区間に乗り入れるなら、9社局ぶんの信号保安装置や無線装置を乗せる必要がある。
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東京電鉄と相模鉄道が運行概要を発表
22年11月24日、東急電鉄と相模鉄道はそれぞれが運行する「新横浜線」の運行計画概要を発表した。
【東急電鉄・新横浜線・東横線・目黒線、上り渋谷着列車】
- 東急新横浜線は1時間当たり最大16本。
- 新横浜駅始発は1時間当たり最大5本(日中2本)。
- 新横浜駅東横線方面はすべて急行。
- 新横浜駅目黒線方面は急行と各駅停車。
- 東横線の菊名始発各駅停車は、1時間当たり最大4本は取りやめ。
- 東横線の日吉〜渋谷間急行は、1時間当たり最大4本を増発。
- 目黒線日吉始発列車は朝ラッシュ時22本から10本へ。日中12本から8本へ。
東横線の横浜〜菊名間は変化なしだが、菊名発渋谷方面各駅停車が15本から11本になる。菊名〜日吉間は4本の減便。日吉〜渋谷間で各駅停車しか停まらない元住吉・新丸子は目黒線も使えるとして、都立大学・祐天寺・代官山は少々不便になりそうだ。目黒線の日吉始発のうち朝ラッシュ時12本は新横浜線直通になる。新横浜線は最大16本とあるので、この差の4本が東横線方面直通で、すべて急行だ。
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【相模鉄道】
- 新横浜線は1日100往復200本を東急直通で運行。ほかに新横浜折り返し列車がある。
- 平日朝ラッシュ時間帯は本線系統4本、いずみの線系統7本。合わせて11本を運行。
- 本線系統の直通列車は東急目黒線方面へ(朝ラッシュ時間帯の一部は新横浜折り返し)。
- 本線系統の直通列車は特急と各駅停車。
- いずみ野線系統の直通列車は東横線方面へ(朝ラッシュ時間帯の一部は新横浜折り返し)。
- いずみ野線系統は特急・通勤特急・各駅停車が東横線へ。
- 新横浜線直通が増えるため、西谷〜横浜間の折り返し運転を実施して補完。
平日朝ラッシュ時の東急線方面11本が直通する。東急新横浜線は最大16本のうち新横浜折り返しが5本としているので計算が合う。しかし相鉄線の発表ではラッシュ時に新横浜駅折返しがあるという。これはおそらく、都心側の東急線と郊外側の相模鉄道で、ラッシュ時間帯に差があるためかもしれない。
現在、JR・相鉄直通線は相鉄本線と直通しており、新宿方面に上り7時台に3本が設定されている。この本数が維持されるとすれば、相鉄本線の新横浜方面4本は横浜行きの振替になる。いずみ野線も7本が横浜行きから新横浜方面になると思われる。相模鉄道の起点方面の輸送力を確保するなら、西谷始発横浜行きは11本、西谷駅同一ホーム乗り換えとなるだろう。しかし輸送需要に合わせて減便されるかもしれない。
いずみ野線は現在、各駅停車と通勤特急の2種類がある。新横浜方面向けに、かつて横浜行きだった特急が復活する。これがラッシュ時間帯のいずみ野線内で増発となるか、各駅停車の格上げとなるか。後者の場合は各駅停車のみの駅で減便となる。輸送需要に合わせれば妥当かもしれない。
しかし、ラッシュ時は通勤特急、日中は特急と時間帯によって分ける可能性が高い。ちなみにいずみ野線の特急と通勤特急は、いずみ野線内の停車駅は同じ。違いは本線に乗り入れたときで、特急は鶴ヶ峰駅を通過、通勤特急は停車する。
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路線略図で運行パズルを解く
新横浜線に関連する路線の略図をつくってみた。四角囲みは駅名、駅間を結ぶ線に付けた英字は各社局が使用している路線記号、または駅ナンバリング記号。( )内は路線ごとに分類されていない区間について、便宜上筆者が付記した記号。複雑さに戸惑うばかりだ。この図では東武東上線と西武池袋線の池袋駅、西武池袋線と東京メトロ有楽町線方面、所沢駅と西武球場前駅のラインを省略した。
趣味で運行系統やダイヤを予想して楽しむにしても、ほかにラクな路線がありそうな気がする。しかし各社の発表を見ると、この煩雑さを克服し、利用者にとって便利な鉄道でありたいという気持ちが見えてくる。相互直通運転にあたって各社の調整が必要だ。もちろん譲れるところ、譲れないところがある。
優先度の高い路線を探してみよう。この図では新規開通する羽沢横浜国大〜日吉間に関連する路線を太くしているけれども、鍵を握る路線は細い線のほうだ。記号JA、JR東日本の「JR・相鉄直通線(相鉄・JR直通線)」だ。事実上、埼京線を大崎から延伸したような運行形態である。ならば埼京線でいいと思うけれど、その理由は後ほど考察する。
埼京線は武蔵小杉〜西大井間で横須賀線、山手線に並行する区間で湘南新宿ラインと線路を共用している。横須賀線は総武快速線、湘南新宿ラインは東海道線、高崎線、宇都宮線と線路を共用している。JR東日本がどの路線を優先してダイヤを決めているか。それぞれの路線にラッシュアワーがあり、在来線特急が走る。JR・相鉄直通線の優先度は高くなさそうである。つまり、他の路線の都合に合わせる必要がある。
そんなJR・相鉄直通線と直通する相模鉄道は、やっぱり相手に合わせる必要がある。相模鉄道だって事情はある。しかし列車の運行計画は中央から外側に向かって決まっていくものだ。運行本数が少ないほど融通が利くからだ。
幸いにも、JR・相鉄直通線は新横浜駅より相模鉄道寄りの羽沢横浜国大駅で相互直通している。だから相模鉄道側が調整すれば良い話で、東急線系統の影響は少ない。新横浜駅は島式プラットホームが2面、線路は3本あり、中央の線路を使って双方に折り返し運転ができる。東急側、相鉄側で直通列車の折り合いがつかなければ、新横浜で折り返せばいい。
次の優先事項は西武鉄道の特急列車だ。西武池袋発の特急列車「ちちぶ号」は毎時30分発、夕刻から毎時00分の「むさし」が加わる。この時刻を崩さないとなれば、副都心線方面直通列車の時刻も動かしにくい。
相互直通運転において、折り返し設備のある駅は多いほうがいい。列車の遅延、故障、事故などでダイヤが乱れたときに、直通運転を中止して自社線内の運行本数を維持したり、ダイヤを立て直したりできるからだ。新横浜駅のほか、相鉄線では羽沢横浜国大駅、西谷駅に折り返し可能な設備がある。東急線は日吉駅と武蔵小杉駅が折り返し可能だ。
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西武鉄道と東武鉄道の考え方
新横浜線の運行に関して、相模鉄道と東急電鉄以外の会社からは発表がない。JRの全国ダイヤ改正発表に合わせるつもりだろう。慣例によると毎年12月の第3週金曜日で、今年も12月16日に発表された。ただし、埼京線、JR・相鉄直通線に関する特記事項はない。運行本数は変わらず、時刻が微調整されるか程度かもしれない。来週以降、各社から順次ダイヤ改正の発表があるはずだ。
西武鉄道と東武鉄道は報道などで意思を表明している。西武鉄道は新横浜駅に直通しない。理由として「新横浜駅方面は東横線内で同一ホーム乗り換えで対応できる」からだ。しかし、東武鉄道は「新横浜駅に直通する。東海道新幹線接続が魅力」とする。
西武鉄道は休日に西武秩父〜横浜〜元町・中華街間で、有料着席列車「S-TRAIN」を運行している。西武鉄道沿線の人々にとって、横浜中心部、中華街を乗り換えなしで結ぶルートに価値がある。東海道新幹線に乗るなら、池袋乗り換えでJR山手線に乗り、東京駅または品川駅に向かうだろうという考え方だ。
東武鉄道は新横浜直通を希望している。東武鉄道から東横線方面の乗り入れは1時間に2本程度。これを東急側では「新横浜折り返しの急行」として扱うだろう。12月16日に発表されたダイヤ改正によると、新横浜直通列車は平日に12本が設定される。それ以外は元町・中華街行きを残すようだ。
西武鉄道と東武鉄道の考え方の背景には「車両走行距離の精算」がある。相互直通運転の場合「他社の乗り入れ車両を借りて自社で運行する」と解釈する。相模鉄道の車両が東急東横線で走った場合、東急電鉄が相模鉄道の車両を借りて営業したわけだ。だから車両レンタル料を支払う。しかし、相互直通運転の場合は、逆に相模鉄道が東急電鉄の車両を借りて営業することがある。そうなると互いにレンタル利用を精算する必要がある。
しかし、すべての車両が借りた距離を計算し、現金でやりとりするのは面倒だ。そこで、お互いの保有車両をお互いの路線で同じ距離で走らせて相殺しようとなった。これなら、運行計画をつくって車両を割り当てた段階で相殺できる。直通区間だけで等距離にならないならば、相手先の線路だけ往復して帳尻を合わせる。これが相互直通運転の基本だ。
車両走行距離相殺のために、相手先の区間だけを走る事例もある。先頃、東急電鉄の車両が試運転し、相模鉄道の横浜駅に現れた。東横線の横浜駅は04年に地下へ移転しているから、18年ぶりに東横線の電車が地上の横浜駅にやってきたことになる。横浜駅は本来の直通ルートではないけれども、精算運転として定期的に走る機会がある、またはダイヤが乱れたときに行き先を変更して走行できるか、試運転したようだ。
相互直通運転が一直線につながっていたら、精算運転は簡単だ。しかし相手先で2方向に分かれてしまう場合、精算のための運行計画がもっと複雑になる。西武鉄道は元町・中華街行きに絞って単純化し、東武鉄道は複雑になっても新横浜駅行きを組み込んだといえそうだ。あるいは、西武鉄道の車両は相模鉄道の保安装置を搭載しないという理由が考えられる。
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2つの提案
相模鉄道と東急電鉄の直通によって、JR・相鉄直通線に新たな展開があるかもしれない。東横線直通方面に比べると、現在のJR・相鉄直通線は存在価値が薄まるような気がする。
JR・相鉄直通線で羽沢横浜国大の次の駅は武蔵小杉、その先に渋谷と池袋がある。これらは東横線、さらに副都心線で同じ駅がある。ちなみに相鉄線二俣川〜渋谷間は新横浜線経由で39分、540円。JR・相鉄直通線経由で41分、780円。JR経由は鶴見まで遠回りするけれど所要時間の差は意外にも小さい。しかし運賃は東横線経由のほうが安い。二俣川〜池袋間は新横浜線経由で56分、840円。JR・相鉄直通線経由で53分、860円。こちらも東横線経由が安い。
つまり、相模鉄道沿線からJR・相鉄直通線経由は選択されないかもしれない。JR・相鉄直通線に利点があるとすれば、JR線でもっと遠くへ行く場合や、武蔵小杉駅で横須賀線に乗り換えて東京方面に行く場合だ。
それならいっそ、JR・相鉄直通線は埼京線方面ではなく、横須賀線品川、東京方面に向かった方が良さそうだ。相鉄にとっては行き先が増えるし、JR東日本にとっても業績不振といわれるJR・相鉄直通線の乗客を得られる。もしかしたら、品川方面直通になることも考慮して、「埼京線」ではなく「JR・相鉄直通線」としたのではないか。
もう1つの提案は「旅客案内に系統番号の採用」だ。列車の行き先表示は終着駅だけだから、途中の主要駅が分からない。現在も京急電鉄空港線の各駅で、行き先を見ただけでは品川に行く列車か横浜に行く列車か分かりにくい。羽田空港第1、第2ターミナル駅は今後、引き上げ線を設置して降車ホームと乗車ホームを分ける構想がある。同じプラットホームから正反対の方向の列車が出発する。初見殺しだ。
そこで、新横浜線系統の場合、東横線なら相鉄本線方面を「S01(系統、以下同)」、いずみ野線方面を「S02」、新横浜止まりを「SH」、みなとみらい方面を「MM」、小手指方面を「SB」、森林公園方面を「TJ」、高島平方面を「I01」、鳩ヶ谷方面を「N01」、浦和美園方面を「SR」などとする。まるでバスみたいだけど、例えば新横浜から渋谷に行きたい人には「SB」か「TJ」に乗ればいい、と説明できる。
国内前代未聞の16路線直通だ。分かりやすく便利な路線にするために、鉄道各社がどんな工夫をするか。正式なダイヤ発表も含めて、開業が楽しみだ。
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2022-12-17 00:03:00Z
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