【イスタンブール=木寺もも子】トルコ通貨リラの対ドル相場が22日、急落した。中央銀行総裁として引き締め政策を続けてきたアーバル氏をエルドアン大統領が解任したことで、通貨防衛が緩むとの観測が広がった。エルドアン氏は金融緩和で景気を浮揚させ、支持率を高める構えだ。だが、通貨安で物価が上がれば、市民生活は悪化しかねない。市場の動揺が広がる可能性もある。
リラは対ドルで一時、前週末比15%前後下落した。一日の下落幅では2018年8月にトランプ米前政権との関係悪化でリラが急落した「トルコショック」以来の大幅な下落率になった。トルコのエルバン財務相は22日「物価と金融の安定なしに持続的な成長はできない」という内容の声明を発表し、同国中銀が早期に利下げへ転じるという観測の打ち消しに追われた。
中銀総裁更迭は2年弱で3度目
リラ急落の主因は、エルドアン氏が20日に発表した、当時のアーバル中銀総裁の更迭だ。同氏は20年11月に就任後、インフレ抑制のため主要な政策金利である1週間物レポ金利を計8.75%引き上げ、年19%に高めた。市場は歓迎し、リラは20年11月の史上最安値から、最近では2割近く上昇していた。だが、後任の総裁に就いたカブジュオール氏は緩和志向の「ハト派」で、市場は利下げ転換へのサインだと受け取った。
米国と同じ北大西洋条約機構(NATO)加盟の同盟国なのにロシア製の地対空ミサイルを購入したトルコに対しては、1月に就任したバイデン米大統領も厳しい姿勢を保つ。同氏はトルコの人権状況も憂慮する。エルドアン氏とは電話での会談も実現していない。
金利を巡るエルドアン氏の考え方はシンプルだ。金利を下げれば、マネーが市中を回りやすくなる。金利の引き上げは景気を冷やす「悪」だ。アーバル氏を中銀総裁に就けた当初は「(インフレ退治のため)苦い薬でも飲む」姿勢だったが、物価安定の効果はすぐに出ず、市民生活の負担になる高金利を容認できなくなったもようだ。
トルコにおける中銀総裁の更迭は過去2年弱で3度目。エルドアン氏の支持率は20年末以降、不支持率を下回るようになった。調査会社メトロポールが3月上旬に公表した2月分の世論調査では支持率が46%、不支持率は47.8%だった。
トルコは20年、低金利での自動車ローンの提供、国営銀行の融資枠拡大などの新型コロナウイルス対策で実質1.8%成長を達成したが、国民の生活実態は厳しい。インフレ率は15%を超え、就業を諦めた人などを含む広義の失業率は3割に達する。
中銀のカブジュオール新総裁はエルドアン氏の意向を受け、金融緩和への転換を目指すとみられる。だが、金利の操作だけで通貨安定とインフレ抑制を同時に達成するのは難しい。アーバル体制で高まり始めていた中銀の独立性への信頼が再び揺らげばリラがさらに売られかねない。18年のトルコショック後は、一時25%を超えるインフレが起き、景気後退局面に陥った。
市場が懸念するのはトルコ中銀が管理する外貨準備が潤沢でないことだ。中銀は解任されたアーバル氏の前に総裁を務めたウイサル氏の下で、利上げを抑えるかわりに国営銀行を通じたリラ買いの為替介入を実施した。このために20年だけで1000億ドル(約11兆円)を超える外貨を売ったとみられる。
22日のリラ急落後も国営銀行が介入したもようだが、リラの買い支え効果は限定的だ。
トルコは新興国のなかでも経済規模が大きく、リラ取引は制約が少ない。このため18年のトルコショック時にはアルゼンチン、ロシアなどほかの新興国の通貨や、貿易と投資でトルコの関係が深い欧州の単一通貨ユーロの下落を招いた。
MUFGバンク(トルコ)の資金管理責任者、オヌル・イルゲン氏は「22日のリラ急落の要因はトルコ固有で、波及は限定的とみられる」と指摘するが、混乱が続けば関係国の市場に影響する可能性を否定しない。
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2021-03-22 10:38:14Z
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