[香港 18日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 経営危機に陥っている中国不動産開発大手、中国恒大集団の許家印会長は昨年、不動産業界において同社は「大き過ぎてつぶせない」存在だと示唆する書簡をしたためていたことが明らかになっている。
ところが、中国人民銀行(中央銀行)は15日、恒大集団を全体として「健全な」業界における1つの「腐ったリンゴ」と定義し、同社の問題はあくまで個別事案だと割り切った。これは甘過ぎる判断のように思えるが、中国でシステミックな金融危機が起きる可能性が低下しつつあるという意味で、当局の見方は正しい。
人民銀行の金融市場担当責任者を務めるゾウ・ラン氏が発信したメッセージは、投資家にとって非常に分かりやすい。つまり政府は基本的に介入しないということだ。
同氏は恒大集団について、未完成物件引き渡しに向けた資産処分の加速を促しながらも、さまざまな失敗は純粋に同社の経営上の問題に起因しており、債権者も「比較的分散されている」と説明した。これは恐らく、人民銀行が各銀行や他の金融機関と密かに行ったストレステスト(健全性審査)の結果を踏まえたとみられる。
もちろん恒大集団は、より大きな痛みをもたらすだろう。許家印氏は既に、オフィスビルをはじめとする保有資産を大幅に値引きしない限り、売却するのが難しくなっている。
業界内でデフォルト(債務不履行)も雪だるま式に増え始めた。15日には中国地産集団が返済期限を迎えた社債の償還ができなくなり、今年これまでのデフォルト総額は470億元(73億ドル)に達した、と不動産情報サービスの克而瑞研究中心(CRIC)が見積もっている。
S&Pグローバルは先週、不動産大手2社の緑地控股集団と易居中国企業の格付けを引き下げた。
ただ、より先行きが明るい状況にある龍湖集団のような不動産会社にとって、「巻き添え」で痛手を受けるリスクは随分と小さくなっている。ゾウ・ラン氏が一部の金融機関は人民銀行の債務コントロール政策を誤解していると批判したように、過度に引き締め的な与信管理政策も今後は部分的に修正されるだろう。
一方、相対的に足場のぜい弱な不動産会社は、なお「弱い環」であり続ける。ゾウ・ラン氏が、昨年の国有石炭大手、永城煤電控股集団のデフォルトがもたらした衝撃や、2019年の包商銀行接収に伴う銀行間市場の大混乱に言及したことから、政府は適切な政策対応のための多少の痛みは甘受する意向だとうかがえる。
不動産関連の専門調査機関、貝殻研究院によると、今年償還が予定される中国の不動産会社の債務総額は、1兆2800億元に上る。半面、1-8月の社債発行額は前年同期比で21%減少した。
それでも不動産業界では比較的耐久力を備えた企業が多数派となっており、光が差すトンネルの出口が近づいてきたことを物語っている。
●背景となるニュース
*中国人民銀行(中央銀行)の金融市場担当責任者を務めるゾウ・ラン氏は15日、中国恒大集団の経営危機は個別事案であり、不動産業界全体の問題ではないとの見方を示した。
同氏は、大半の不動産開発会社が着実な経営姿勢で財務基盤もしっかりしていると主張。恒大集団の債務問題が金融セクターに波及するリスクも制御可能であり、同社の総負債に占める金融負債は3分の1弱にとどまる上に、多くの債権者のエクスポージャーは限定されているとの見方を示した。
*同氏は、「関係省庁」と地方政府が法に従い、市場主導の原則に基づいて恒大集団の「リスクを取り除く」作業を進めており、資産処分や建設プロジェクトの再始動、住宅購入者の正当な権利保護の取り組み強化を促していると説明した。
*同氏によると、一部の金融機関はこれまで人民銀行の債務コントロール政策について「誤解」を抱き、幾つかの不動産開発会社が資金面で苦境に陥る原因になったという。
*不動産開発大手の越秀地産は、恒大集団が保有する香港本社ビルを17億ドルで取得する計画を撤回した。恒大集団の債務問題により取引を円滑に実行できなくなる恐れが出てきたためだ。ロイターが15日、関係者の話として伝えた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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2021-10-19 05:10:00Z
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