クレディ・スイス・グループを巡る危機では、同行買収で合意したUBSグループが数少ない勝者となりそうだ。政府が仲介役となった歴史的な買収合意には金融ショックを吸収する一連の措置が盛り込まれている。
歴史的合意は週末の慌ただしい交渉を経て、アジア市場での取引開始前までに成立した。UBSはクレディ・スイスを30億スイス・フラン(約4300億円)規模の株式交換方式で買収する。幅広い保証や流動性供給も付く。今回の買収合意の勝者と主な負け組は以下の通り。
勝者:ラルフ・ハマーズ氏
UBSのラルフ・ハマーズ最高経営責任者(CEO)にとっては、ウェルス・アンド・アセット・マネジメントの投資資産が約5兆ドル(約658兆円)に増大するだけでなく、クレディ・スイスで黒字となっているスイス部門も維持される。多くのアナリストは同部門はクレディ・スイス買収額の3倍超の価値があると指摘していた。
ハマーズ氏率いるチームはどの事業や人材を維持、変更あるいは切り捨てるかを検討することになる。買収する資産から生じ得る損失に対してはスイス政府から90億フランの保証があり、中央銀行からの巨額の流動性供給もある。
多くの負け組:
クレディ・スイスの上位株主ら
湾岸諸国の投資家は新旧問わず痛手を被っている。筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクはクレディ・スイスの最新の増資で株式を購入してから15週間未満で11億フランの損失を出した。
カタールの政府系ファンド(SWF)であるカタール投資庁 (QIA)が受ける痛みはより長期間にわたる。QIAが最初にクレディ・スイスに投資したのは先の金融危機時だったが、今回はそれ以上に損失が膨らむ可能性がある。2位の大株主であるQIAは価値がゼロとなったクレディ・スイスの「その他ティア1債」(AT1債)を過去に保有していた。AT1債をなお保有していたかどうかは明らかになっていない。スイス当局がクレディ・スイス身売りの合意成立を急ごうと規則を変更したため、株主には投票の機会さえ与えられない。
ウルリッヒ・ケルナー氏
クレディ・スイスのウルリッヒ・ケルナーCEOは多くの問題を抱えた同行の再生を成し遂げられなかった。昨夏にトップに就任したケルナー氏は退社が見込まれている。同氏はリスクを削減し、ウェルス・マネジメントにより集中する計画を策定していた。最も業績が良好だった投資銀行業務の分離さえ計画していた。しかし同行に対する信頼感を取り戻すことはできず、昨年10月には巨額の資金が流出。スイス政府が介入せざるを得なくなるまで同行への圧力は強まった。
マイケル・クライン氏
シティグループの元投資銀トップ、マイケル・クライン氏が描いていた「ファースト・ボストン」ブランドを復活させ、ウォール街の強力なアドバイザリー企業へと成長させる計画は頓挫した。
クライン氏はクレディ・スイスがCSファースト・ボストン(CSFB)を切り離した後にそのトップに就任する予定で、自らの助言専門会社をすでにクレディ・スイスへ売却する途中だった。
UBSのコルム・ケレハー会長は19日遅くの記者会見でCSFBについては言及せず、自行の投資銀行に満足していることを示唆した。
AT1債保有者
債券保有者は通常、株主よりも保護される立場だが、今回は違う。スイスの連邦金融市場監督機構(FINMA)がウェブサイトに掲載した声明によると、買収合意を受け、中核的自己資本拡充のためクレディ・スイスの約160億スイス・フラン相当のAT1債の価値はゼロに切り下げられる。
今回の事態は2750億ドル規模の欧州AT1債市場にとって過去最大の損失となった。
スイス当局、納税者
システム上重要とされる金融機関が救済を余儀なくされるのを目の当たりにした監督当局は、金融危機後ではFINMAが初めてとなった。スイス政府はUBSに数十億フランの保証を提供し、中銀は救済措置をまとめるために大規模な流動性の後ろ盾を提供せざるを得なかった。UBS救済から15年後、納税者はリスクにさらされることになった。スイスのケラーズッター財務相は、「これは唯一可能な解決策だった」と述べた。
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原題:The One Big Winner and Many Losers of UBS’s Credit Suisse Rescue
(抜粋)
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2023-03-20 20:02:00Z
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