Sabtu, 01 Juni 2024

今後10年間で出生数が半減「最悪の悪循環」の正体 - 東洋経済オンライン

『きみのお金は誰のため』の中にも、主人公たちが学費で困っているシーンがある。

うらやましがる優斗に、兄は荷造りの手を止めて、あきれた顔を向ける。

「お前さあ、そんな気楽じゃねえよ。大学卒業したら奨学金も返さなきゃいけないし」

「奨学金って借金なの?」

「そうだよ。俺がもらうのは、将来、返さないといけないやつだからな」

「それって、いくらなの?」

「300万円」

「マジかあ……」

その金額に驚いて、優斗は天井を見上げた。

(中略)

優斗は愚痴をこぼしたが、それこそが擬似的な贈与だとボスは教えてくれた。

「お兄さんは、大学の先生に教わるけど、先生のために働いて返すわけやない。社会に出てから、お金を稼いで、奨学金を返す。そのお金を稼ぐときに、未来の誰かのために働いているんや。次の贈与が起きている」

(『きみのお金は誰のため』172ページ)

単に”大卒資格を得る”ためだけに大学に行くのなら問題だが、大学で学業に専念してそれを社会に還元してくれるなら、国が学費を全額負担することを考えてもいいのではないだろうか。

少子化が進むと「お金を使う場所」自体がなくなる

“子育て支援”という話題になると、「子どもを持つ世帯VS子どもを持たない世帯」という構図になりがちだ。

しかし、子どもが育たなくて困るのは、老後を迎える人すべてである。誰かの子どもたちが働いてくれるから、お金を使うことができる

少子化が止まらなければ、十分な物やサービスを手に入れることができなくなる。繰り返しになるが、お金がその価値を発揮するには、働く人々の存在が必要不可欠なのだ。

明治維新のころは、西洋に追いつくべく人材育成に力を入れていた。その結果、日本は世界の列強に肩を並べることができた。

ところが、現在では諸外国に追い抜かれてしまった。

財源を理由に、人を育てることをいつまで後回しにするのだろうか。

現在推し進められている資産所得倍増計画についても、「NISAを利用して自己責任で老後の不安に備えてくれ」というメッセージにも受け取れる。

たしかに、金銭的な不安が競争原理を働かせ、社会を成長させるという側面もある。しかし、それはお金を得る目的の競争においてのみ有効だ。

金銭的な不安によって、学業に励むことや子どもを産み育てることが困難では、社会全体が沈んでしまうのではないだろうか。

田内 学 お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家

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たうち・まなぶ / Manabu Tauchi

お金の向こう研究所代表・社会的金融教育家。2003年ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブなどの取引に従事。19年に退職後、執筆活動を始める。

著書に「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」総合グランプリとリベラルアーツ部門賞をダブル受賞した『きみのお金は誰のため』のほか、『お金のむこうに人がいる』、高校の社会科教科書『公共』(共著)などがある。

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2024-06-01 02:30:00Z
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