Senin, 04 Desember 2023

都心マンション値上がり続く 「ZEH」資産性のカギに - 日本経済新聞

価格高騰が続くマンションや一戸建て住宅。今後の動向や資産性などに関するポイントを、リクルートの池本洋一・SUUMO編集長が解説する。連載の1回目は新築分譲マンション価格の動向や、商品としての注目点を取り上げる。

東京23区の平均価格が1億円を超えるなど、価格上昇を続ける新築分譲マンション。2024年以降のマーケットはどう推移していくのか。今回の原稿では供給サイドの予測とともに、購入者の志向の変化にも目を向けてみたい。

シニアカップル・富裕層が買い支え

不動産経済研究所(東京・新宿)が発表した23年10月の首都圏新築分譲マンション市場動向によると、首都圏の平均価格は6567万円、東京23区だと同8709万円。23区の平均価格は1億円を超える月もあり、今後も都心6区(千代田、中央、港、渋谷、新宿、文京)など都心部の価格上昇トレンドは続くと考える。

弊社の「首都圏新築マンション契約者動向調査」を見ても、世帯主の平均年齢は39.7歳で調査開始以来最も高い。世帯総年収も全体平均で1034万円と08年以降で最も高い結果となった。またシニアカップル世帯(世帯主年齢が50歳以上の夫婦のみ世帯)の購入比率も最も高い。

建築資材費はこの2年で2割以上上がった。世界情勢の不安定化による資源高と円安の影響で、高騰は一定期間続くだろう。

労務単価も年率1割弱上昇している。建設業界が労働基準法の順守を求められる「24年問題」や政府の賃上げ要請もあり、さらなる上昇はほぼ確定的だ。

土地も高騰している。特に駅近くは都心や郊外でも地価の上昇が大きいが、デベロッパーは「立地の希少性」があれば高値チャレンジできるとみており、獲得競争が激化している。

分譲マンションは1期、2期、3期と販売期を分けて販売するが、ここ数年、都心部や駅前の物件は期ごとに値上げしても売れている。これも土地を高値で仕入れる根拠になっている。

では、価格が上昇しても購買は減少しないのか。現在マンション需要を支えている購買者は主にパワーカップル(高収入の共働き夫婦)、貯蓄額が多く相続税対策を考えているシニア層、中国や東南アジアの富裕層、バブル後の高値をつけた株式を元手にした富裕層だ。

特に富裕層は、希少価値のある住戸を選ぶ傾向が強い。上層階、あるいは150平方メートル超などのラグジュアリー物件はかなりの高値でも売れる状況になっている。東京都心の価格は世界の主要都市の価格とつながっている。世界的にはスーパーシティへの人口・資金集中が続くはずで、景気による多少の上げ下げはあっても長期的な価格上昇の流れは続くだろう。

駅前と駅遠では別世界

一方で、郊外の中核以外の駅や、駅から徒歩15分以上離れたエリアの新築マンションでは異なった傾向が見られる。これらのエリアでは資産価値の上昇をにらんだ投資用の購入者はおらず、実需が中心だからだ。

デベロッパー側は、周辺が過去分も含めて過剰供給になっていないかも見極めて慎重に供給している。見立てがうまくできなかった一部の物件は売れ行きが芳しくなく、一部は値引きすらも出ている状況だ。

郊外ではマンションと比べ割安感のある分譲一戸建てとの競合がある。ターミナル駅なら駅徒歩10分以内、それ以外でも駅徒歩5分以内は、強気のマンション独自の相場でも売れると思われるが、それ以外の立地は一戸建ての価格動向をみる必要がある。一戸建ては次回詳述するが、郊外では需給バランスが崩れ、高値圏から少し下がり局面に来ている。

ただし集合住宅のニーズは、郊外でもシニア層や2人暮らし世帯を中心に存在している。今後、分譲マンション分野においては小粒の土地で小規模なマンションを増やすのが良いと考える。後述する木造ハイブリッド化も打ち手の1つだ。また一戸建て同様に地域の仲介会社に広く販売を依頼するなど、「製販分離」による販路の合理化・多角化も検討すると良いだろう。

省エネ基準の引き上げ進む

ここからは、24年以降の新築マンションについて、主に商品としての注目ポイントをみていきたい。

政府は25年4月に、新築住宅の省エネ基準の適合を義務化する。そして遅くとも30年までに、消費エネルギーをさらに20%削減した「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準」に省エネ基準を引き上げる。

さらに24年4月には省エネ性能表示(広告)が努力義務化され、リクルートの住宅情報サイト「SUUMO」などのポータルサイト上の広告でも物件の性能を表示するラベルが掲載されるようになる。すでに大手デベロッパーのなかには、今後建築するすべての分譲マンションのZEH化を発表した企業もある。分譲マンション業界のカーボンニュートラルへの対応は24年も進んでいくと見てよいだろう。

消費者サイドの意識も高まっている。近年の光熱費の高騰や夏の暑さなど、気候変動を身近に感じる機会が増え、物件の省エネ性能を重視する層が増えている。高額物件を購入する層は特に意識が高いとの現場の声も聞く。

弊社の「住宅購入・建築検討者調査」では、新築マンションをメインで検討した層のZEHの認知率(言葉も内容も知っている割合)は、20年の29.5%から22年には38.9%へと大きく跳ね上がった。ZEHマンションに取り組む会社が増え、広告や接客の場でうたわれることで、認知率が上昇したようだ。

そして向上したのは認知だけに留まらない。SUUMOに掲載されている物件のうち「ZEH/省エネ」という言葉が含まれる物件は、含まれない物件に対して1.6倍の問い合わせ効果があった。

マンションは「資産性」を重視する購入層が多い。30年には「ZEH水準」のクリアが義務化される予定ということは、それ以降、同水準を満たさない物件は「現行基準にそぐわない」ことになり、資産性にも影響する。この点が、販売戦略上も分譲マンション業界のZEH化推進の動力になると考えられる。

木造マンションにも注目

また木造マンションや、内装の木質化にも注目したい。脱炭素に向けては省エネだけではなく、木材の利活用が必要だ。木造はRC造と比べて製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を4分の1程度に削減でき、木材利用により木が吸収したCO2を固定化できるメリットもある。伐採後に再度植林をすれば、その木がCO2を吸収する効果もある。

先日訪問したスウェーデンのストックホルムでは鉄筋コンクリート(RC)・木造のハイブリッドのマンションが、RC造のマンションとほぼ同じ建築コストで作られており、最近の売れ行きではRC造よりも好調と聞いた。

日本においても木の風合いを好むニーズは顕在化している。日本の中高層木造の建築コストはRC造と比べてまだ割高のフェーズだが、経験値を積んでいけばコスト合理化は果たせると考えている。

池本洋一(いけもと・よういち)
1995年上智大卒、リクルート入社。住宅情報誌の編集、広告に携わり、2011年から現職。SUUMOリサーチセンター・センター長を兼任。国土交通省の既存住宅市場活性化ラウンドテーブル委員、働き方改革に伴う不動産の在り方検討会委員などを歴任。

[日経ヴェリタス2023年12月3日号]

日経ヴェリタス

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2023-12-04 19:00:00Z
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